白翁幻想・夢世界作品集 第1集

白翁の数ある作品の中には、面白い作品があります。

作者は常に、枕元にペンとノートを常備しており、ふと見た摩訶不思議の夢を直ちに書き残し、

その実に楽しい幻想の世界を幽玄にまで、漆画技法で表現しておりました。

また作者が幼少時より好んで聞いたり読んだりしておりました神話・伝説・昔話なども

作者の夢の中で代わった内容で再現され、そのような内容も作品として残されております。

 

※漆画作品内に使用されております珊瑚は、ご高名なる珊瑚美術彫刻家の巨匠・前川泰山先生の刻彫に依るものです。

​漆画・引っ掻き手法 8号 「人生に一遍の夢あり」

「夢心地」と題して、白翁の記述が残されております

それには夢物語作品が完成されるまでの経過として、自身の見た夢の内容が、事細かく記載されております

 

大海の岩の上に座しスケッチをしていると、向こうから小波を立てて来るものがある

ポッカリと岩の下に顔を出した霊魚が私に言うには、「般若心経を毎日、1巻写経し、三十年間で壱萬巻完成されしはおぬしか…」という

そこで私は「そうだ」と答えた

 

※注釈

白翁は作品制作前には、必ず精神統一し、心を鎮め、写経を済ませるという自らの願いを三十年間守り続け、

遂に昭和四十二年に壱萬巻を達成しております

その完成された魂の結晶を、浅草寺で入魂しております

その感激時に見た夢の内容なのです

 

霊魚曰く、「龍神が海中におぬしを案内せよと申されるので、お迎えに来たので、我が口中に入れ」と大口を開いた

よって霊魚の口中に坐る

静かなる海中を進むと、色とりどりの魚が優雅に泳いでいた

深き所に到り、珊瑚林の間を行くと、竜の落とし子が楽しそうに遊んでいる

遠い向こうを見ると、お城のようなものが見える

あれが竜宮ならん

時に霊魚が曰く、「おぬしはまだ修行が足りぬから、まだ乙姫に案内する事は出来ぬが、人魚が暁の富士を見たいと申しているから、

おぬしの作品で見せてもらえぬか…」という

 

その約束を果たすために完成したのが「人魚暁の富士を看る」の図となる

これを漆画三十号とし、人魚はピンクの珊瑚に表現す

 

昭和四十六年十一月と記載されております

​漆画 8号 「霊魚(龍神の使い)」

​漆画 8号 「霊魚(龍神の使い)」

霊魚の口中に白翁が座し、海中深く潜行を続けると、遥か向こうに竜宮が見えてきた

という場面

龍神の使いと約束を交わした白翁は、人魚の願いである「暁の富士」を制作する為、

早速帰途に就くという場面

漆画 30号 「人魚暁の富士を看る」

夢で見た内容を完成させるためアトリエで日数を重ね、我を忘れ日夜制作を続け完成させた作品

 

人魚(ピンク珊瑚)が手にしているのは、赤珊瑚の枝 海に踊る魚類も赤珊瑚で表現

​表            裏

​漆硯 「龍神」 

たて  1尺5寸

よこ   1尺

幅    1寸5分

むくむくと湧き立つ巻雲を呼び、風を起こし、雨を降らし荒れ狂う波涛

うねる大海より出没した龍人面蛇身・半神姿の不思議な夢も後日見た

その図を漆硯で表現した作品

 

白翁が連日、作品制作に没頭する激しい精神そのものの姿であると

思われる作品です

 

※龍は赤珊瑚

龍の力のシンボルとされた珠、それはインド紀元の

「ナーガ」の持つ如意宝珠という神通力を込めてある大切な珠

それを大海の岩上にそっと置いて、龍が出現してきた

 

※珠は赤珊瑚

​墨・書額 8号 「龍神一喝」

白翁筆による龍に関する書も多数残されております

作者・白翁による藝道記述の中に、制作の合間を見ては日本国中を巡り、数百年・或いは千年に近い古木・巨木を探し回り、

その都度スケッチを続けていることが記載されております。

 

その中に、「巨木を求めて各地を巡る 数百年も生き抜きし巨木あり 天を払うが如し 細かく観察スケッチに収む

長き歴史を生き抜いた巨木には、霊気が漂う 心静かに樹木と語る

樹精が現れ、喜びと感謝、飛んだり跳ねたりの幻想の世界を見せてくれる その踊り舞う樹精を珊瑚で彫刻 

それを用いて漆画に完成す」と記されております。

難儀なる自然界を長き年月を経て生き抜いた巨木の前で、白翁は敬虔なる心を持って手を合わせ、ねぎらいの言葉をかけると、

白翁には楽しい踊りを見せる樹精が見えてくるのでしょう。

漆画 25号 「菩提樹の下に」

         樹精童子・珊瑚

釈尊が菩提樹下に座し、悟りを開いたと伝えられる神聖なる樹木。

ある日この老木に逢えた白翁は、直ちに樹下に座し、手を合わせ、深々祈りを捧げ、心の触れ合いを済ませて、スケッチを始めた。

白翁の目には、しっかりと老樹木に棲みついている守護神「樹精」が楽しそうに飛び跳ねて見せてくれているのが、はっきりと見えてくるのでした。

菩提樹に関する白翁の記述より

 

奇跡は起こるべきして起こる

私のアトリエの庭に菩提樹育ち花咲き実る

沙羅双樹の白き花、洗心、自覚、佛の声を聴く

近年、樹齢三十年にもなる庭内の菩提樹の葉に、奇蹟的現象を見る

通常の葉の六倍もある大きな葉が、東側の一枝に三年間続いて五枚づつ生ずる

その一葉を持参して浅草寺の大僧正・清水谷恭順氏を訪う

以上の次第をお話し申し上げた所、大僧正は先年インドを渡った折、ブッタガヤより持参されたる菩提樹の葉と、

私のアトリエに育ちたる葉と比べてご覧になる

私のアトリエに育ちたる葉の異常の大きさが確かめられた

大僧正曰く、「仏縁奇蹟なり」と申され「貴下の身辺に近々奇跡が起こるであろう」と申された

その菩提樹の葉を全て大切に押し花にして保存す

事実は小説より奇なり

そして独創の漆画の不可能かと思われし難しき点が、次々と可能になり変化を見る

独創の漆画の世界に、光明を見出す

奇蹟なるべし

とあります

​墨絵 額装 15号 「不平あらば」

​漆絵版画・墨絵 額装 8号 「不平あらば」

白翁の不平、不満、弱音など一切聞いたことがありません  きっとこの自作の中に入れていたのかもしれません

                                                     

                                                 壺の中には、菩提樹が描かれております

​漆画 8号 「自覚せば佛の声を聴く」

菩提樹の本物の実が使用されております

漆画 8号     「菩提」

波紋は宇宙を表しており、その中で仏の悟り、煩悩を断じ、心理を明らかに

という意味で、菩提樹の葉がその空間で舞っている図です

日本人の精神史、といったものを想定した場合、一番深い関わりを持つ樹種は「桜」との定説がございます

岐阜県根尾村に在する樹齢千四百余年の老樹桜や、山梨県武川村に在する樹齢二千年ともいわれる

天然記念物「神代桜」など、白翁は各地を巡り歩き老樹を観察

桜を題材とした漆画を多く残しております

漆画  8号     「平安満開桜」

※樹精の拡大図

桜は「穀霊」の宿る花で、稲霊のシンボルとも言われておりまして昔、農民達はその年の秋の豊凶を、桜の咲き具合で占ったとされております

幹は大きな空洞(うろ)と化し、幹上部は朽ち果て苔むしてはいるが、それでも枝に見事に咲かせた花は、まさに神々しく輝いて見えてきます

白翁には、無事に満開を見届け喜ぶ樹精が、はっきりと見えてくるのでしょう

 

​漆画 8号     「柏槙の君主」

白翁記述…老樹・柏槇の朽ち果てるまでも、樹中で堂々と守り続ける樹精の姿

樹精と問答を交わす

無心でスケッチを続けていると老いた樹精が、感謝の舞を披露してくれた

 

※樹精は珊瑚

漆画30号  「みのりと七人の樹精童子」

                樹精童子・珊瑚

白翁記述…枝一杯たわわに実る熟れた柿

秋の実りに歓喜する七福神

私の来訪に応えてくれたのでしょう

 

※樹精童子は珊瑚

書額25号   「坐禅して」

墨絵書額8号   「無為の世界」

坐禅して悟れば柿も羅漢なり

石榴も柿も成佛すれば菩薩なり

​漆画  8号     「威霊樹」

白翁記述…天を突くような想像をはるかに超す巨木がそびえ立っていた

        雄大なる根元には祠があり、その奥深き中央に台座のようなものが見えていた

        台上で座す樹精が、両手を差し伸べて私をじっと見つめていた

        樹精の光背がピカピカと黄金色に輝いていた

        私は両の手を合わせこうべを下げた

 

        ※白翁はその夢物語を8号の漆画として残しました

 

        ※樹精は珊瑚

​漆画  8号     「福徳圓満」

のどかで穏やかな幸せが果て無くいつまでも…との願いで

 

※図案化された菊は赤珊瑚

​漆画  8号     「心の糧をもとめて」

白翁記述…激しく揺れる海原で見え隠れする岩盤あり

     蟹が波涛と闘いながら荒波にも動ぜず、堂々と生きていく姿を見る 

     自然は生きるために努力と感謝を教えてくれる

     よく見れば佛の姿でもあると思う

 

※蟹は赤珊瑚

 

遥か天空より富士に向かって舞い下りてくる天女図

漆画 30号  「天女・仙果携え舞い下りの図」

白翁記述…良く晴れ渡った日、そびえ立つ霊峰富士に寄り添うように生い茂る松原

        天空高く舞っていた天女が、その美しさに魅了され、天界で実るとされる

              不老長寿の仙果を携え、下界に舞い降りてきた

 

                ※昔の神話で、神がその樹に天降るという説話が白翁の夢となって現れ、

               その妖艶なる不思議な光景に、心惹かれ漆画に表現したものです

 

                ※天女は珊瑚 仙果はピンク珊瑚

 

美しき松原を巡り見る天女図

 

漆画 30号  「天女・仙果携え舞い下りの図」

美しき松原を巡り見る天女図

 

漆画 30号  「天女・仙果携え舞い下りの図」

漆画    20号      「羅浮仙」

※中国の伝説、神話の中に梅花の精「羅浮仙」の物語があります

白翁は幼少の頃、母より或る日、この物語を聞きとても興味を抱き、繰り返し同じ内容を、よく聞いていたと申します

 

白翁記述…中国王朝の一つである隋の時代でのお話であります

広東省にある羅浮山の梅花村に、超師雄(ちょうしゆう)という人物が、林間のある料亭に立ち寄って宿をとった時の物語です

夕方煙る夕霧の中に、見るも麗しい婦人が薄化粧をし、軽い羅(薄く織った絹の布)の衣を纏い、芳香を漂わせながら師雄を招いていた

誘われるままに酒を酌み交わし、杯を重ねるうち、いつか酔い伏してしまい夜が明けた

目覚めて捜せど、麗しき婦人の姿はどこにもなく、師雄自身は大きな梅樹の許にあった

ただ梅の高貴な香りだけが、あたり一面漂っていた

婦人は梅の精であった

 

※白翁の夢なかにどこかよく似た物語です

 白翁が子供の頃から好んでよく聞いていた事が、理解できます

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